おしゃれな新興住宅地が広がるはずれに、昔からの農家の集落があります。周りにはたんぼが広がり、道路は広くきれいですが、人通りはとても少ないところです。
歩く人もいない道路の道端に、杖を投げ出し、腰を抜かしたようにへたり込んで、手を挙げているおばあさんがいました。
もしかして、家に帰れずに困り果てて手を挙げたのだろうか、具合が悪くなって助けを求めて手を挙げたのだろうか、そんなことを考えました。
車で見かけて、やはり気になって、そこに戻ってみました。連れ合いに続いて私が降り、おばあさんに近づきました。
「大丈夫ですか?何かあったんですか?」
「ありゃ、わざわざ来てくれたの? 悪いねぇ。ちょっと休んでいただけだよ。だいじょうぶだよ。だんなさんも奥さんも来てくれて」
歯のないおばあちゃんは、柔らかな笑顔を返してくれました。
「何でもなくて良かった」 ホッとしました。
それにしても、あの、杖の放り出し方といい、へたり込み方といい、紛らわしかった。
おばあちゃんは、手を挙げたのではなく、通る車に手を振ってただけなんだと、あとで大笑いでした。